タイムトラベルの王道 「シュタインズ・ゲート」と「夏への扉」

 友人からおすすめされて、シュタインズ・ゲート(Steins : Gate)というアニメのDVDを貸してもらいました。正月に観はじめたら、面白くて、徹夜で一気観してしまいました。

 オープニングテーマもかっこいいですね。また、最後の2~3話ぐらいで、歌詞が2番に変わって、ストーリーと合致するのが、熱くて粋な演出でした。

 「もう迷いはない・・・孤独の観測者」

 ちなみに、その友人もIQが120後半あります。私もIQ129あるのですが、SF好きな人は、わりと知能指数が高い人が多いようですね。実際、SFファンの人の知能指数は、そうでない人の知能指数よりも、統計的に有意に高い傾向にあるという調査結果もあるそうです。

 SF考察は、知的ゲームとして面白いですからね。

 私は、実は、SF小説の大御所、ロバート・A・ハインラインのファンで、ほぼ9割ぐらいの著作を読んでいます。

 ハインラインは、SFは「サイエンス・フィクション」ではなく、「スペキュレーティヴ・フィクション」だと言っています。speculativeとは、思索的・推論的という意味であり、「もし現実に存在しない”未来ガジェット”が存在したら、世界にどのようなことが起こり、人間はどのように行動するだろうか?」ということを、徹底して推論してストーリーを作っていくのが、ハインライン流なのですね。

 だから、ハインラインのSF小説は、非常に高い設定上のリアリティと、”人間性”の本質をあぶり出す精神的なリアリティを兼ね備えており、これが「ハインライネスク(ハインライン節)」と呼ばれて、その魅力・人気の源になっています。

 さて、今回は、シュタインズ・ゲートを観て、タイム・パラドックスものとして、ハインラインとの共通点を感じましたので、そのあたりを考察してみようと思います。

 ハインラインは、タイムトラベルもの、タイム・パラドックスものを何作も書いていますが、やはり題材として挙げるべきは、代表作「夏への扉」でしょう。心魔道士は高校生のときに読みました。やはり、あまりに面白いので、一日ノンストップで一気読みしましたね。

 ネットを見ると、夏への扉の考察が色々書いてありますが・・・甘いな・・・ハインラインを全部読んでないでしょ? その思想がわかってない感じですな。

 ほぼ全作を読んでいる心魔道士が、真のハインライン考察を見せてあげましょう(笑)。ハインラインの処女作「生命線」や、映画化もされた「輪廻の蛇」(映画 「プリデスティネーション」)などにも触れますよ。

 ネタバレを含むので、読む前に原作を見る・読むことをおすすめします。

○ シュタインズ・ゲートのタイムトラベル・ガジェット

 先に、シュタゲの方から概要を説明しましょう。シュタインズ・ゲートでは、肉体や物質をタイムトラベルする技術はメインではありません(あとから出てきますが)。

 「過去に電子メールを送る」のと、「記憶を情報圧縮して、過去の自分に音声暗号信号として送り、それを聞いた過去の自分に”未来”の自分の記憶をインストールする」という、2つのタイムトラベルの手段を主に用いています。

 過去にメールを送ることで、当事者の行動が変化すると、過去が改変されます。また、過去の自分に記憶をインストールすれば、その人物は未来の情報に基づいて行動するので過去が改変される可能性があります・・・改変を目的に過去にタイムリープしているのに、そう簡単に改変できないのが辛いところなのですが・・・

 改変が成功すると、「世界線」が移動します。つまり、一本の世界の中で改変が起きるのではなく、改変をした時点で、世界線が分岐し、改変しなかった世界と、改変した世界が存在するようになってしまうのですな。

 これは、わりとSF的には古典的な設定です。なぜなら、タイムリーパー・タイムトラベラーの記憶の中には、改変されなかった世界が存在するからです。改変されなかった世界が消滅するなら、タイムリーパーの記憶も消滅しなくてはならない。しかし、消滅すると、そもそもタイムリーパーが過去改変に至る理由も消滅し、そもそもタイムリープに来た理由が先立って消滅して、タイムリープに来ることがなくなる・・・即時タイム・パラドックスに陥ってしまうのです。

 逆に、記憶が存在するなら、改変前の世界は存在していたし、存在していないといけない。記憶ではなくて、”夢”のようになってしまうかもしれませんが、夢を根拠にタイムリープというリスキーな行動を起こすのは合理的ではない。

 このSF設定的な即時タイム・パラドックスの罠を回避するには、”平行世界”を想定し、タイムリープで改変を行うと平行世界が発生し、世界線が分岐するとするのが、手っ取り早いのです。

 シュタインズ・ゲートの中では、この”世界線”という言葉が頻繁に出てきます。世界線を移動すると、その世界線に存在しない事象の記憶は人々から失われます。失われるというより、その世界線の人々には、もともとそんな事象など存在しなかったのですから、記憶していること自体がありえないというわけです(ただ・・・デジャヴや夢という形で現れてくる・・・というのがシュタゲ・劇場版のストーリーの中核ですがね・・・)。

 ちなみに、最近爆発的に人気が出ている実力派バンド「オフィシャル髭男ディズム」の「pretender」でも、世界線という言葉がキーワードになっていますね。髭男の人はシュタゲの大ファンらしく、ジャケット・デザインにも、シュタゲのガジェットである「ダイバージェンス・メーター」が出てくるぐらいなので、意識して「世界線」という言葉を使っていると思われます。

 そして、主人公の岡部倫太郎(鳳凰院凶真)は、ただ一人、世界線が移動しても、他の世界線の記憶を保持できる「リーディング・シュタイナー」であり、孤独の観測者としての重荷を背負いながら、仲間や愛する人を救うために奔走します。

 中二病のマッド・サイエンティストなのに、”おかりん”がやたらかっこいいのは、その孤高かつ不撓不屈の精神の故ですね。

○ 夏への扉のタイムトラベル・ガジェット

 さて、ハインラインの「夏への扉」では・・・未来への移動に「冷凍睡眠」を、過去への移動に「タイムマシン」を用います。

 冷凍睡眠は、個人にとっては、ほぼタイムマシンとして機能しますね。自分の時間を止めて、周囲だけ時間を進めさせれば、相対的に時間旅行をしたことになるでしょう。

 といっても、冷凍睡眠を維持している会社や機関があるので、世界線の移動は起こらないですね。

 過去への移動に用いたタイムマシンは、とあるマッド・サイエンティストが元々軍事用に開発したものでした。過去の特定のポイントに、部隊や物資を送り込んで戦況を変えることが目的でした。しかし、送る対象と同じ質量のカウンターバランサーをセットする必要がある点、対象が過去に行くか、未来に行くかは50:50で一か八かである点で、実用に至りませんでした。失敗すると、過去の戦場に部隊を送る代わりに、カウンターバランサーとしてセットした岩やら土嚢やらのゴミが送られることになるのです。仮に、両方に部隊と物資をセットしても、半分は無意味に未来に送られてしまうので、費用対効果的にお蔵入りになった代物です。

 主人公は、マッド・サイエンティストをそそのかして、このタイムマシンを自分に対して使わせるのですが、過去に移動できるかどうかは一か八かでした。

 ここに、ハインラインの思想が込められていますね。ハインラインは、人間の都合のために自由に過去に戻って、現在を改変することを良しとしていません

 登場するタイムマシンが、過去に戻れるかは一か八かという制限を課されているが故に、自由に過去を改変して現在を都合よくしたいという欲望は否定され、愛のために一か八かで命をかける勇気だけが肯定されているのです。

(注) と、このマッド・サイエンティストのタイムマシンは実用性がない欠陥品として扱われていますが、使いようによっては恐ろしい性能を持っています。なぜなら、戦況を変えるには、何も大部隊と豊富な物資を送らなくても十分だからです。ゴルゴ13みたいな凄腕の暗殺者を二人用意して、過去と未来に送れば、過去側に行った方が単独で敵の指揮官を暗殺するなどして、世界線を変えることができるかもしれません。とはいえ、時間移動は一方通行であり、暗殺に向かった者は帰ってくることはできません。結局、人生を棒に振る覚悟がないと使えない代物であり、時間を移動したあとには暗殺者への命令や束縛も不可能なので、暗殺者自身の確固たる意志がなければ作戦が成立しません。あくまで、タイムマシン+人生を棒に振ってでも目的を達成する強靭な意志が組み合わさったときに、このタイムマシンは恐ろしい力を発揮しえます。実際、ダニーの場合も、目的が軍事的でなく、超個人的であっただけで、成功要因は同じだったと言えるでしょう。

○ 夏への扉には「タイム・パラドックス」がない

 夏への扉の否定派は、夏への扉にタイム・パラドックスを期待しています。

 実は、それが間違いなのです。

 ハインラインは、夏への扉の中では、タイム・パラドックスに触れるつもりがまったくなかったのです。

 主人公のダニーが自ら、タイム・パラドックスが極力起こらないように行動していますし(過去の自分に会わないように気をつけている)、平行世界についての思索をし始めたときにも「考えるのをやめる」という選択をしています。

 しかし、ハインラインがタイム・パラドックスを書けないわけではありません。

 ハインラインの処女作「生命線」では、「寿命を予測する」マシンが登場します。寿命予測は、ある意味で未来へのタイムトラベルです。

 その結果は・・・悲惨ですよ・・・

 考えてみましょう・・・寿命予測装置を製作するうえでマッド・サイエンティストは”誰を実験台に使うか?”

 そして、寿命予測が実用化すると、都合が悪い業界が存在しますね・・・そういう業界は、”虚”の金を大量に動かしているので、危ない連中ともつながりやすい傾向があります。業界が破滅する危険が発生すれば、保身のために殺人も省みないかもしれません。

 マッド・サイエンティストは、予測した寿命を変えることができないかと試みますが・・・世界線の移動は・・・。未来を知りたいのは、未来を変えるためでしょうが、変えられない未来だったらどうするのかという問題が・・・

 そして、映画化もした「輪廻の蛇」では、おそらく、SF史上最高クラスに吐き気がする最悪のタイム・パラドックスが書かれています。

 

 まあ、タイム・パラドックスに強いSF通を気取るなら、必読でしょう。読後に吐き気がしますが(笑)

 ヒントは・・・老若男女全員が・・・実は・・・そして永遠のループが・・・

 やめておこう。読んでください。全く驚かずに耐えられたら褒めてあげましょう。

 読めば、ハインラインがタイム・パラドックスを書けない低レベルなSF小説家だというわけではないことがわかるでしょう。

○ 未来はいずれにせよ、過去に勝る

 話を戻しましょう。

 夏への扉の主人公 / ダニエル・ブーン・デイヴィスも、シュタインズ・ゲートの主人公 / 岡部倫太郎(鳳凰院凶真)も、ひとつの同じ信念を持っているのです。

 それは、「未来はいずれにせよ、過去に勝る」ということです。

 過去を都合よく改変しようと考えていません。未来を恐れていません。

 ダニーも岡部も、タイムトラベルで過去に飛ぶときには、自分のことは考えていません。

 愛するものを救うために、自分の命や幸せを棒に振る覚悟で飛ぶのです。

 だから、ダニエル・ブーン・デイヴィスは、理系オタクで、ハゲで、猫マニアのロリコンなのに、読者の共感を呼ぶ爽やかな男になり得ているのです。

 岡部倫太郎(鳳凰院凶真)も、無精髭で中二病のマッド・サイエンティストですが、視聴者(観測者?)の共感を呼ぶ爽やかな男になるのですね。

 そして、自分のために命を張る男に、女性というのは惹かれるものです。容姿や金など些末な問題です。そう思えない女は、すでに根性が曲がってしまっていると言ってもいいですかな。

 両作の共通点は、タイムトラベルというSFガジェットで、愛と勇気という人間性の本質をあぶり出していることなのです。

○ ダニーと岡部はノリが似ている

 上記の思想的な共通点だけでなく、夏への扉のダニーと、シュタゲの岡部は、ノリも似ています。

(事例 レストランでこっそりと猫にミルクをやっているのを、店員に見つかったときの反応)

 ダニー 「いきなり現れたかと思えば、なかなか辛辣なことを申されるな、お主は?」

 岡部 「ふっ、貴様、機関のエージェントだな・・・? ああ、俺だ・・・どうやら、奴らが動き始めたらしい。この鳳凰院凶真が飲むのは知的飲料であるドクペだけだという情報を、すでに奴らは掴んでいたようだ。非常にまずい状況に陥っている・・・」

 ダニー 「だが、州の保健衛生指導要綱に基づけば、レストランへの猫の持ち込みを禁止する合理的根拠はないはずだが?」

 岡部 「たしかに、貴様の言う、猫にもドクペを飲ませればよいとい理屈には一理ある・・・しかし、この最高の知的飲料を賞味するには、猫舌は都合が悪いという事実を、貴様は見逃しているようだな」

 店員 「保健所がどう言おうが、ここはうちの店なんで・・・あと、猫もドクペを飲めばよいとか一言も言ってないんで・・・穏便にお引取り願うか、力づくで叩き出されたいか・・・あっしもことを荒立てたくはないんですがね、旦那・・・?」

 ダニー 「ふっ、それなら、今度は馬とでも飲みに来るさ・・・」

 岡部 「ふっ、これもシュタインズ・ゲートの選択か・・・次は、フェイリス・ニャンニャンを連れてくるとしよう・・・」

 店員 「ご自由に・・・保健所も馬のことは何も言ってないんでね・・・あと、フェイリス・ニャンニャンは猫じゃなくて、猫耳でしょうが」

 まあ、言いそうですよ、こいつらは(笑) で、喧嘩にはからっきし弱い(笑)

○ 猫は重要 ラボも重要

 夏への扉の考察で批判的なことを書いている人の理由のひとつに、猫のガジェット的必然性がない、という点があります。

 まあ、ネコ好きなんでしょうね・・・

 私も猫を何代も飼ってきた猫好きですから気持ちはわかるが・・・君は猫好きレベルが浅い!

 夏への扉では、猫のピートは、やはり最重要マスト・アイテムなのです。

 過去に戻ったダニーが、姪っ子の信頼を得られるかどうかの勝負所で、ピートが懐くかどうかというのが、本人確認手段として用いられるのです。

 これが、猫以外の他の動物だと、そうはならないのです。犬ではダメですね。犬は序列で動くので、見知らぬ人間でも権力があれば懐きます。猫は違う。気まぐれですし、権力に支配されない。そんな猫が懐くからこそ、決定的な本人確認になるのです。

 猫という動物の本質をつかんだ、ハインラインらしい演出です。

 これが、猫ではなく、犬であったら・・・あるいは、アルパカでは反応すらないですからね・・・

 猫は、ダニーと姪っ子の心を、時空を超越してつなぐ絆の証です。

 絆の証といえば、シュタインズ・ゲートでは、ラボがその役割を担っています

 ラボは部屋として皆の居場所であるというだけでなく、下に42型のブラウン管テレビというとんでもない代物が置いてある点で、最重要アイテムです。このふざけたブラウン管がないと、ラボでないと、タイムリープマシンは起動できないのです。

○ シュタゲと夏への扉は、あわせて観よう

 というわけで、同じタイムトラベル物として、魅力的な、シュタインズ・ゲートと夏への扉。

 SFファンなら、あわせて観ましょう、読みましょう。

 

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